かわにしツーリズム

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みなさんこんにちは。
かわにしツーリズム研究会の齊藤といいます。

昨年10月下旬、在外研究で英国にいらっしゃる東洋大学の青木辰司教授のお誘いもあり、私のほか研究会の4名、全国各地でグリーンツーリズムの活動を行なっている10名の合わせて15名で、英国ハートランド地方のグリーンツーリズムのようすを研修してきました。

ここでは、研修の報告書から、要点について掲載させていただきます。
少々長くなりますが、ご参考になれば幸いです。
2006.01.19:ツーリズム事務局:count(7,473):[メモ/イギリス研修報告]
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英国の農家経営の現状
私たちが訪れたのは、ロンドンから西北西に200km圏内の地域で、英国の典型的な農業地帯である。平地では、小麦の生産が、丘陵地帯では牧草地として大規模に行なわれている(英国の農家一戸あたりの経営面積は約70ha)。

ここでの農家経営の現状を最も端的に表していたのは、10月24日に訪れた酪農家のジェームスアプロバイ氏の言葉で、経営は今後、規模拡大するか、やめるか、多角化するかの3つだ、というものである。

これとは別に、同じ日に訪れた養鶏業のフィリップリー氏のように、生産品(卵)のブランド化を戦略的に行なっている例を見てきたが、今回の研修の焦点は、まず多角化にあった。

英国の農家経営多角化でわたしたちが見てきた事例には、直売所の経営や加工品の生産販売など日本の農家経営でも一般化してきている事業に加えて、B&Bスタイルのファームハウス(農家民宿)の経営がある。

(写真は英国の直売所の様子)
2006.01.19:saito:修正削除
農家民宿経営の背景
私が英国で最も感銘を受けたことは、古い建物(大規模な建物だけでなく、一般の民家や商店、作業小屋なども含)がとても数多く残っている点である。

これには、地震がなく気候も低湿であることの影響が大きいが、もともとの古いものを大切にする気質が強く、ひいては建物の古さが付加価値として高価格で取引される要因となる、ということには驚かされる。ただ、建築当時のまま、というのは少数で、構造や外観を留めながら、内装などは現代的なリフォームが施されているものがほとんどである。

農家にも、このような伝統的な建物が多く残されており、都市住民の自然(田舎暮らし)志向(青木先生によれば、英国の都市住民にとって、リタイア後、地方の伝統的な家で暮らすというのが一つのステイタスであるということであった)と合わせ、地方の農家民宿が成立する背景となっている。

また、農家に嫁いだ女性の役割が、日本とは大きく異なっている点も重要である。英国では、農場へ出て作業するのは男性に限られており、女性には農作業を手伝うという発想がないようである。その分、農業にある多面的価値と自分を活かすビジネスとしてB&Bスタイルの農家民宿の経営が、農家(英国ではあくまでも農場を持っている家)の女性の職業の選択肢としてある。

つまり農家の多角的経営とはいえ、夫は農場経営を行い、妻がB&B経営を行なう、という一家に2人の経営者がいるスタイルが一般的のようであった。

(写真は築100年以上の鳥小屋を改装したゲストルーム)
2006.01.19:saito:修正削除
農家民宿のサービス 【施設その1】
まず、施設的なものからみていきたい。

多くの場合、建物は古く趣きのあるものである。部屋にはアンティークが溢れ、ベッドやクローゼットも年代物が多い。装飾的なカーテンやベッドカバー、壁紙にも目を引かれる。古い建物の特徴を活かし、天井は高いものが多く、壁とのコントラストのある見せ柱や飾り窓なども雰囲気の演出に一役かっている。照明はスポットや間接照明が多用されていて、明りの平たい蛍光灯はほとんど目にすることがない。

どの民宿でも家族の写真がたくさん飾られているのも印象的である。「農家民宿はパーソナルなコミュニケーションが大事だ」といっていた経営者がいたが、確かに写真をきっかけに話ができたり、家庭の様子がうかがえたりと結構良く見入った。

このような部屋の雰囲気作りは、どの民宿でもかなり力を入れている部分である。提供するサービスで最も重要視しているようにも感じる。経営者のセンスに影響される部分でもあるが、私が実際に見た5軒はどこも良い雰囲気(=青木先生のいう「古くてもお洒落」)であった。

 バスやトイレは、現代的なものが備えられている。バスタオル、フェイスタオルは質のよい清潔なものが常備されている。歯ブラシ・ひげそりはなかった。湯船がなくシャワールームだけのこともある。いずれにせよ各部屋に設置することによって民宿のランクがあがることから、ほとんど各部屋に専用のものが設置されている。また、連泊の場合、大抵は2日目もベッドメークするようだが、私が泊まった一軒では全く部屋に入った形跡がないところもあった。

(写真は改装した鳥小屋の内部)
2006.01.19:saito:修正削除
農家民宿のサービス 【施設その2】
 パブリックスペースは、各民宿の特徴がでるところのようだ。朝食会場となる部屋のみゲストが自由に使えるスペースのところもあれば、ラウンジのようなスペースに大きなテレビや雑誌をおいて、ゲストが自由にお茶を飲みながらくつろげるようにしているところもあった。

 もうひとつのパブリックスペースは庭である。どこの民宿にも手入れの行き届いた庭があり、鮮やかな緑の芝生が敷かれていた。所々にアーチがあり、視点場を意識して庭をデザインしていることがわかる。植物性のハンギングバスケットや石のプランターには季節の花々が咲き、石造りの建物には蔦やつる性の植物が計画的にからませてある。雄大な農場を見渡せる事が多く、ファームステイを最も実感できる場でもある。この庭の手入れについては、経営者の夫の役割になっていることが多いようだ。

 施設的な面で最後に言及しておきたいのは、経営者のプライベートの空間とゲストを迎える空間の線引きである。比較的大きな民宿では、プライベートの空間は完全に見えなくなっていることが多いようであった。キッチンも見えないことが多いが、ほとんどは一箇所と思われる。

 一方、ゲストルームが3部屋程度の小さな民宿では、経営者の日常を見てしまうことがあった。ある一軒では、経営者のダイニングルームがゲストの朝食部屋にもなっており、私たち(3名)が朝食を摂っている間、その家族はダイニングに続くキッチンで立ったまま食事を済まし、それぞれ出かけていくという場面にも出くわした。ゲストルームの隣に家族の部屋もあった。この小さな民宿では、その家族の家に泊めてもらっている、という感覚になり、生活が垣間見える面白さもあるが、なんとなく遠慮がちに過ごしてしまうものだった。

(写真はあるB&Bのパブリックスペース)
2006.01.19:saito:修正削除
農家民宿のサービス 【食事その1】
 英国の農家民宿の多くはB&Bスタイルを採用している。その理由は、夕食にかける手間から解放されるためであろうが、もともと英国では料理にそれほど手間をかけないようである。

 それは民宿で提供される朝食にもあらわれる。どの民宿でも基本的に「イングリッシュブレックファスト」とよばれる英国の伝統的な朝食が提供される。1枚のプレートに大きなソーセージとベーコン、焼トマト、卵料理(目玉焼き・スクランブルエッグ・ゆで卵のいずれか希望の一品)がセットされ、それにトーストとコーヒーか紅茶、それにオレンジジュースが基本のセットである。

 このほかに自由に食べられるシリアル(宿によっては、箱のままテーブルに置かれている!ジュースやミルクは必ずピッチャーで提供されるのだが)があり、民宿によっては、フルーツやヨーグルトも提供される。また、プレートには宿によって、マッシュルームや甘く調理された豆があることもある。いずれにせよ、オーブンとフライパンがあれば調理でき、さらに包丁を使うのは焼きトマトを半分にカットするときだけである。

 この朝食、はじめはなんだか嬉しいものだが、私は5日間で充分であった(というより飽き飽きした)。当初、英国人は毎日この朝食を摂っているものだと思っていたのだが、3軒目の民宿で同宿した英国人夫妻を観察していると、イングリッシュブレックファストを頼まずに、シリアルを軽くとフルーツにヨーグルトをかけたもの、あとはコーヒー・紅茶程度で済ませている。

 それで足りるのかと聞くと、夫妻のご主人は、シリアルを指差しながら、「これが大好きなんだ」と自嘲ぎみに笑っていた。実際はこんな程度なのであろう。それから考えれば、イングリッシュブレックファストはゲストをもてなすごちそうのような気もしてくる。

(写真は典型的なイングリッシュブレックファスト)
2006.01.19:saito:修正削除
農家民宿のサービス 【食事その2】
 ところで、日本で農家民宿といえば、その土地の旬の味を期待するものであるが、英国では日本のようには期待できない。ある民宿では、ローカルフードとして、地場のパンやジャムを提供しているといい、また別の宿では、地元の農家と連携し、肉や野菜、アイスクリームやチーズ、サイダーといった加工品を出しているということであったが、このことは、青木先生によれば英国ではかなり先進的であるという。

 この背景としてまず考えなければならないのは、英国の農業経営が単一の作物を大規模に作るスタイルであることである。農家といっても自家消費用の作物はほとんど作っていないのだ。また、四季が日本ほどはっきりとしていないため、旬のものも日本ほど多様ではない。裏返して言えば、日本の農家ように、自家消費用とはいえ、畑で多品種を栽培し、多様な旬の味を楽しめるのいうのは、民宿経営を考えた場合、とても魅力的なことと思えるのである。

 さて、B&Bスタイルの宿に泊まった客は、夕食はどうしているのか、という点も気になる。私たちは毎晩のようにパブに繰り出したのだが、他の多くのゲストも近くのパブに出かけるようだ。最初に泊まった民宿には、廊下の一画にその宿推薦(話によると提携していることもあるらしい)のパブやレストランを紹介するスペースがあり、地図や電話番号のほか、メニューまで見ることができるようになっていた。

 なお、パブに行くとどうしてもビールを飲んでしまうものであるが、パブへは多くの場合、自分で車を運転していかなければならない(農家民宿はたいてい広大な農場の中にぽつんとある)。飲酒した場合、宿へはどうやって帰るのか気になるところだが、聞くところによると英国では飲酒運転を禁止する法律はないという。自己責任を大切にする大人の国の一端が透けて見える。

(写真はB&Bに置かれた周辺のレストランガイド)
2006.01.19:saito:修正削除
その他のサービス
 たとえば、夕食から宿へもどったとき、日本の感覚だと、「おかえりなさいませ」という丁重な出迎えがあるような気になっている。しかしかの地では「ただいま」といっても誰もでてこない。というよりも「ただいま」にあたる英語すらない。

 夜、出かけるときには部屋の鍵を持たされており、あとはご自由にどうぞ、ということなのであるが、それはともかく、経営者にとって夜は家族で過ごす時間となっており、ゲストのことを気にかけて生活してはいられないのだと思う。もちろん、夜、経営者とゲストが一緒になって酒を飲む、ということもないのであろう。

 これらのことから考えていくと、施設ではゲストをあたたかく迎え、その他の部分ではできるだけ省力化する(ただの省力化するのでなく、英国の個人を尊重する社会性による部分も大きい)のが、農家民宿経営の肝に思えてくる。経営者が民宿経営へ割く時間を減らす仕組みが社会的な背景を含めて出来上がっているのである。もちろん、ゲストの確保には、経営者を知ってもらうこと(人間性)も大きく影響するであろうから、チェックインや朝食の提供時の限られたのコミュニケーションの時間や、溢れるくらいに飾られた家族の写真などが効果的な役割を果たしていると考えられるのである。

(写真は珍しくB&Bの経営者とパブへでかけた場面)
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ゲストは何をして過ごしているのか
 今回の研修では残念ながら一般の客と同宿する機会が少なく、どのような客が農家民宿を利用しているのかを細かく知ることはほとんどできなかった。ただ、唯一同宿した50歳代と思われる英国人夫妻とは朝食時に多少話をすることができた。表情豊かでユーモアのあるご主人ととても知的な雰囲気の奥様のカップルである。

 彼らと同宿したのは10月24日(月)25日(火)の2泊である。彼らはロンドンから200㌔ほど離れた農家民宿に車(三菱グランディス)で来ていた。26日朝の話だと、25日は朝食後、近くののフットパス(遊歩道)を10マイル(約16㎞)ほど歩いたという。ご主人は妻につれられて、10マイルも歩いてきたんだ、という雰囲気であったが、奥様は涼しい顔をしていた。26日も別のフットパスを歩くといって、目的地に向け颯爽と車を走らせていった。

 また、先述したように、この夫妻は、宿の食事には期待していないことは明らかである。このような様子から、彼らには目的とするフットパスがあり、そこを歩くために宿を決めたのでは、と想像ができた。私には、事前の情報とあわせ典型的な農家民宿の利用者のように思えた。

 この事前の情報というのは、農村地帯のフットパスについてである。英国の都市部で生活する人の多くにとって、月に数度、地方の農村地帯にでかけてフットパスを歩くことは、大きな楽しみとなっているという。実際、私たちはあちこちでフットパスを見つけることができた。これらのフットパスは、広大な農場を縫って続いているが、途中にとりたてて特別な見どころがあるわけでもないようである。農村をゆったりと歩くことそのものに価値が見出されているのである。

 これらのフットパスについては、都市部の書店でも全国のフットパス情報を集めた本が手に入るし、日本でいえば国土地理院の発行するような5万分の1の地形図にも記載がある。地方では、各地のインフォメーションセンターに行けば、フットパス情報のコーナーが設けられ、地元で作成したより詳しい地図が安価(数十円)で販売されている。フットパスを歩くことは農村地帯で最もポピュラーなアクティビティといえよう。

 他のアクティビティについては、全容を知るすべを持たなかった。ただ各民宿に備えられているパンフレット類を概観すると、情報としては、名所旧跡やオープンガーデンの情報が多く、そのほかに乗馬やサイクリングなどの情報を見つけることができた。日本のグリーンツーリズムで想像することの多い、農村体験などの情報は、若干の酪農の体験などをのぞき、ほとんど見つけることができなかった。

(写真は各地にあるフットパスのサイン)
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客層
 客層については、農家民宿の経営者からヒアリングすることもできた。

 この民宿は、日本のガイドブックにも登場するような民宿で、外国の客がとても多いというおそらく特殊な要素はあるが、クチコミによるリピーターの確保に力を注いでいるようである。学校の休み時期には、子供連れの家族が祖父母とともに、9月からの閑散期には高齢者が多く訪れるという。どちらかというと高齢者が多いようである。

(写真はヒアリングの様子)
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PR方法
 これらのゲストへ民宿を知ってもらう方法として経営者たちが重視しているのは、まずクチコミであるが、営業を始めた当初は、旅行会社へ空室情報を提供し、手数料を払って送客してもらうこともしていたようだ。

 ウェブでの情報発信も最低限すべきことのひとつという。しかし実際には民間がつくる地域の情報誌、これは客の60%が見ているというが、この情報誌へいかに親しみのある広告を出すかというのが一番効果的なPRだという話も聞くことができた。

 また、どの民宿でも、周辺の同じようなスタイルの民宿と提携しゲストのシェアをしているのも印象的であった。実際、私たちは青木先生がコネクションのある民宿と連絡をとり、その民宿を中心に周辺2~3軒の民宿に分宿するスタイルであった。これもおそらくゲストのシェアという発想によるものであろう。

(写真は現地のパンフレット)
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認証制度
 ところであまたある情報の中から、実際に泊まる場所を決める決め手となるものは何であろうか。クチコミの情報であればその優先順位は高いが、英国では認証制度(格付け)も広く根付いている。

 農家民宿の場合も複数の団体による認証制度が取り入れられており、各民宿の目に付く場所に階級が示されているほか、ガイドブックなどどのような情報にも必ず格付けが示されている。

 認証は別の言い方をすれば品質保証である。保証する団体の信用度に関わることであり、かなり厳しい検査が抜き打ちで行なわれるという。経営者達は、認証する団体を信用しており、この検査の結果を経営に活かすことがステップアップしていくためにはとても大切だ、というのはどの経営者にも共通していた。

 なお、検査の結果が、経営者が活用しやすい形のレポートとして返されるのが、とてもありがたいと口を揃えていたのも印象的であった。

(写真はB&Bに貼られていた認証団体のステッカー)
2006.01.19:saito:修正削除
おわりに
 私たちが見てきた英国の農家民宿の経営は、再三述べた社会的背景の違いもあり、そのまま日本に導入することができるものではない。しかし、経営者の負担を最小限にして、ゲストのニーズにあったサービスを提供するという姿勢は、経営を長続きさせるにはとても重要な要件である。

 私たちの生活する地域のお客様に対する「もてなし」は、長く積み上げられてきたものである。しかし、来客者にとって必ずしもそれが必要なものとは限らない。私たちは今後、お客様のニーズをつかみながら、できる範囲のサービスを提供していくことが必要である。

(写真はB&Bの経営者と同宿した男性、左端が筆者)
2006.01.19:saito:修正削除
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