木造校舎大暮山分校 白い紙ひこうき大会

木造校舎大暮山分校 白い紙ひこうき大会
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 沢の音を聞きながら坂を登ると、少しずつ赤い屋根が見えてきます。登りきると、二階建ての木造の校舎が、木々に囲まれ現れました。大暮山分校です。
 私も友人も校舎の古くて美しい姿に足を止め、時間を忘れうっとりながめいてました。
 しばらくして、友人がぼそっと、
「これって学校の持ってる力だね」
と言いました。
 こんなにやさしい気持ちになれて、母校でもない閉校になった校舎がいとおしく思えてくるのが不思議です。
(いだましい…)
 校舎に近づくとギクッとしました。あっちこっちに直径七〜八センチの円い穴があいているのです。
(きつつきのしわざだな)
 耳をそばだてたり、のぞいたりしているうちに、私の中にピラーンとひらめきました。
「ねえ、ねえ、この穴にいろいろ住んでいるような気がしない?」
 すると友人は待ってましたとばかりに、「リス」と言いました。
(友人はだんだん私の性格に似てくる…!)
「コウモリ」
「---ちがう鳥に借家してるかも」
「ヘビ」
「鳥の卵をねらってくるやつきっといるんだよね」
 しりとりのような会話はとうとう、分校にやって来る動物に発展し始めました。
「タヌキ」「クマ」「オコジョ」「キツネ」
「キツネ?」
と繰り返したところで、お互い顔を見合わせました。
 あれは、忘れもしない四年前、上山の古屋敷村でのことです。
 滝があると聞いて、友人と二人で山の一本道を車で走っていました。
 すると左手に学校らしき建物が見えてきました。その前にやせこけたキツネが入口にきちんと座っていました。
 車が二つ目のカーブを曲った時、私は思いきってキツネのことを友人に話すと、
「イヌでしょう?」
と、いいながらも引き返してくれました。
 建物はもう閉校になった学校でした。入口には、やはり身動き一つしない動物が座っていました。それはまちがいなく、本物のキツネでした。車を近づけても、キツネはリンとして真すぐ前を見たまま座っています。
「何してるのかしら」
「きっと織姫を待ってるんじゃない」
 その日は、七月七日の七夕でした。
その夜私は、二匹のキツネが出会えるように星に祈りました。
大暮山分校にもきっといろいろな動物がやってくるにちがいありません。
 その後私は、何度もこの分校を訪れるようになりました。
 落ち葉をふみしめ鳥笛を首にぶらさげ、ひざまで積もった雪をかきわけ……… 季節は、いつのまにか桜の咲く頃になりました。
 暖かい日ざしにさそわれて、その日もまるで恋人に逢いに行くように分校に足を運びました。
 すると校舎の木の壁をちょろちょろ何かが動いているのを見つけました。
 おどろかせないように近づくと、黒っぽい灰色のリスの子どもたちでした。おせじにも可愛くないし、しっぽなど理科の実験の時、試験管を洗う細長い柄のついたブラシみたい。耳をピンとたててゼンマイじかけのおもちゃみたいに動いているのです。
 校舎にあいた穴には、やっぱりちゃんと住人がいました。
「トコ トコ トコ トコ」
 せわしい音とともに二階の屋根の穴から大きいリスが顔を出し、子リスはいっせいに近くの穴に次々飛び込むように姿を消しました。
(親リスがキケン信号を出したんだな)
 でも、よく見ると、二階の窓わくの所で、一ピキまだのんきに遊んでいるのがいました。
「トコ トコ トコ」
 リスの走る音がまた屋根の近くでします。
今度は校舎の左はしの穴に移動したらしい親リスが、また心配そうに顔を出し、
「キッ」
と一声鳴きました。
 のんびりやの子リスは、やっと兄弟がいないのに気づき、ちょろちょろ移動して柱にしがみつくと、ぴたっと柱になりすましました。
 五分たっても動きません。私がわざと視線をそらすと、リスの子はちょろちょろとまた動き出します。見ると動きません。
----だるまさんがころんだ
 私はおもしろがって何回もリスとかってに遊び、からかっていました。
 リスの子はきっと
(だれかに見つかったら死んだふりをするのよ)
と、教えられたりしていたにちがいありません。人間の子が(クマと出会ったら死んだふりをするといいのよ)などと、聞かされたように…
(あはっ、子リスみたいな人間、世の中にいるのよね、ドジなやつ)
と、くくっと笑ってはたと気がついた。
 それって、私のことじゃないかしら?
 なにはともあれ、リスの子はぶじ穴の中に姿を消し、私は分校に住人がいたことに満足を感じ、にんまりするのです。

(やまがた童話の会会員)
 

2004.07.19:ryuzi:count(4,064):[メモ/コラム]
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