美術館大学構想

(※写真をクリックすると拡大画面で見られます)
■写真上:東北芸術工科大学ギャラリーに展示されている舟越桂さんの彫刻『風をためて』(栃木県立美術館蔵/1983年)とデッサン『山について』。『風をためて』の青年の表情に惹かれるという学生が多い。世代的な共感だろうか?
■写真中:2004年の作品『言葉をつかむ手』近影。印象的な手の所作。
■写真下:ギャラリーに入ってすぐのブースに展示された『水に映る月蝕』とそのデッサン。(撮影:イデアゾーン)
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『舟越桂|自分の顔に語る 他人の顔に聴く』展がオープンしています。

初日の講演会には、建築・環境系と「東北学」関係のシンポジウムが同時に開催されていたにもかかわらず、学内外から大勢の人々が詰めかけました。キャンパスで一番ひろい201講義室(座席数450)は、階段通路にまで人が溢れ、あらためて舟越作品の人気の高さを感じました。
ギャラリーには、山形市内にとどまらず、はるばる仙台や福島からやってくる舟越ファンで「静かに」賑わっています。制作や研究に行き詰まるとやってくるのか、神妙な面持ちのリピーター学生も定着しつつあります。

このように人気の高い舟越作品ですから、展覧会がはじまってからも当然のことながら気が抜けません。舟越さんの作品の魅力を的確に伝えていくために、また、今後、これらの作品を鑑賞するであろう何千、何万もの人々に向けて、作品のコンディションを万全な状態で引き継いでいくために、注意を払わなければならないことが山ほどありました。

まず、はじめてキャンパスを訪れる一般来場者向けのサイン計画や、ギャラリーのセキュリティー環境を抜本的に見直しました。また、開催期間中の作品コンディションについては、修復家の藤原徹教授(文化財保存修復センター)に指導を仰ぎ、デリケートな木彫作品を展示するにあたっての、湿度管理や、巨大なガラス窓からの自然光カット、スポットライトの照度調整などについてのアドバイスをいただきました。

受付や監視、ガイド役に志願してくれたボランティア学生60名には、貴重な芸術作品と観客の間に立って仕事をすることの責任を実感してもらうために、オープン前日に舟越さんから直にレクチャーを受けてもらいました。制作者の言葉で個々の展示作品について知識と理解を深めることができた彼らのモチベーションがおおいに高まったことは言うまでもありません。
舟越作品に寄添う学生スタッフたちの日々は、「舟越展staff blog」に綴られています。
http://gs.tuad.ac.jp/funakoshi/

このように、手探りで準備を進めてきましたが、「キャンパスを地域ミュージアムに!」と、日夜学内でアート活動に勤しむ美術館大学構想室は、公立美術館と違って、毎企画ごとに全ての環境(人的・空間的)の立ち上げを一から整えなければならず、正直に言ってこの展覧会は、その規模と重要性において、やや構想室のキャパシティーをこえるものでした。
舟越作品のために働ける幸いを噛み締めながらも、空回り気味の若い人たちの奮闘を、おおらかに受け止めてくださった舟越桂さんには、本当に感謝です。
西村画廊の皆さん、運搬と設営を担当してくれたヤマトロジスティクスのプロフェッショナルなサポートもありがたかったです。

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設営作業が一段落し、翌朝のオープンを控えた夜。
加湿器の水量を確かめてから、スポットライトを落とす前に、ひとり呼吸を整えて、会場を一回りしてみたのです。
暗がりにスポットライトで浮かび上がる『水に映る月蝕』、『言葉をつかむ手』、『月蝕の森で』といった神秘的な裸婦のシリーズと、最新作の『雪に触れる、角は持たず。』で印象的な、彫像の肩から唐突に突き出た「手」が、僕に向かって、背後から包み込むように伸ばされてくるのを感じました。
舟越さんは、「手」について、「その彫刻自体の手とは限らない、誰かの手」というような言い方をしています。「支える手」「抱く手」「祈る手」… 。静寂に包まれたギャラリーで、宙をつかむように舟越さんの彫刻から差し出されたそれらは、他の誰でもない、この展覧会に関わる僕や学生たちの手であるように思われたのでした。
宮本武典/美術館大学構想室学芸員


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