美術館大学構想

現在進行中
■写真上中:クレーンで吊り上げられる巨大な手。もともとはパチンコ屋の看板として使われていたものを西さんが譲り受け、もう片方の手を合わせて製作したものです。これまで神奈川県民ホールや広島市現代美術館の個展で大量の石膏の瓦礫と組み合わせて展示されてきました。芸工大のキャンパスでは、本館前の池の中心に、まるで眼下に広がる街や山形の山々を両の手に受けとめているように、空の白い器ような佇まいでスッと置かれました。

■写真下:水上能舞台のアプローチに整列する石膏製の二宮金次郎像。原型は彫刻家のアトリエがある埼玉県飯能市の廃校に立ってたものだそうです。斜めに立てかけているのはある神社に奉納されていた子宝祈願の金精様を型取りしたもので、その他、不発弾や仏頭、蓮座など、聖俗・性死にまつわる象徴的なカタチがズラリと整列し、28日17:30、舞台上で森繁哉教授の舞踏『時の溯上』とともに一気に積み上げられます。
■写真上:牡蠣殻に似たシリコン型に石膏を流し込み、硬化を待って型を外すと、白いコケシが姿をあらわします。
■写真中:山形で収集した石膏のモチーフに、作家の工房周辺で丹精された野菜の型も加えられ、作品「彫刻風土」の解釈は、西さんの飯能での生活も抱き込んでひろがっています。
■写真下:彫刻・建築・洋画・日本画・工芸・美文etc...様々なコースから集まった15人の学生チームが、揃いのツナギで制作に参加しました。
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雨の大学祭の真最中、悪天候にかえってハイ・テンションな賑わいを見せたキャンパスの一隅で、西雅秋さんの滞在制作が進められました。
9月の滞在時に制作した大小50個ほどの型に石膏を流し込んでいきます。スタッフ一同、作業のコツと流れを把握するとともに、効率アップを目指して増殖していく生産ラインは、当初予定していた2つの研究室ではとても間に合わず、廊下にまではみだしていきました。
10月28日の夕刻、完成したこれらの集積のまわりで舞踏『時の溯上』を披露する予定の森繁哉さんは、この現場を「焼き場の骨ひろい」と形容し、西さんは、透き通るように薄く鋳抜かれた石膏の野菜を「食べるために並べる」と言って学生たちを惑わします。
和気あいあいと進められた夏の型作りに比べて、不思議な緊張感が張りつめていた鋳込み作業の3日間は、石膏に写し取られた「食」や「性」の断片から、脆くはかない命の営みを抽出する行為のように思われました。鋳抜き作業場は29日から朝日町の廃校へと場所を移し、オープンスタジオとしてその行程の全てを一般に公開されます。
旧立木小学校でのプロジェクトは、建築学科の有志学生と西さんの共同作業として進められ、廃校に残された、かつてここで学んだ子どもたちの記憶を留める様々な品々とともに、即興的に構成・展示されていく予定です。

宮本武典/美術館大学構想室学芸員
■写真上:岩本あきかずさんの作品ブースでのトーク風景。左から、私・宮本、橋本ダイスケさん、小林和彦さん、坂田啓一郎さん、岩本あきかずさん、鈴木伸さん、山崎環さん。
■写真下:舞踏家・森繁哉氏(東北文化研究センター教授)によるパフォーマンス。『カフカ・掟の門』と題した即興的な舞踏を、坂田さんの彫刻作品の周りで踊りました。
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先週末の土曜日に『I'm here.2006』展のレセプションが開催され、午後2:00からのギャラリー・トークおよびダンスパフォーマンスのプログラムには、教職員、卒業生、在学生の他、仙台美術研究所の生徒さんたちなど、約150名の関係者が集まり、若いアーティストをとりまく環境について語り合いました。
内容の詳細は、追ってレポートいたします。取り急ぎ、写真のみUPしておきます。

■写真上:『I'm here.』ロゴタイプは、昨年に引き続き「アカオニデザイン」の小板橋さん(http://www.akaoni.org/)によるデザイン。アート・ディレクションを同じデザイナーが手がけることで、この展覧会のビジュアル的なイメージが定着しつつあるように思います。
■写真中上:学生ボランティアが見事に支えていた鈴木伸さんによる制作+インスタレーション。メディアテークでの設置は15時間を超え、筋力、集中力ともに臨界点ギリギリの設営作業の末、仕上がった作品は意外にクール&シャープな印象。詳細は会場でぜひご覧ください。
■写真中下:坂田啓一郎さんが細かな木組みによる彫像を組み立て中。今回は新作を含め、回転する人体のフォームを彫像化した木彫を6点出品した他、これらのイメージソースとなったスケッチやメモ、マケットなども併せて展示しました。
■写真下:小林和彦さんの映像は、これまでモニター展示が基本だったのですが、メディアテークでははじめてプロジェクターによる壁面投影を試みました。都市が有機的に脈動する様に目眩を覚える、魔術的な空間が出現しています。
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先週の22日[金]、せんだいメディアテークで、今年の『I'm here.』展がオープンしました。21日[木]には早朝くから、キャラバン隊よろしく総勢30名のスタッフが仙台入りし、設営をすませて山形に戻ってきたのは日付が変わる直前、というハードな状況は去年とまったく同じでした。
いくら事前に万全を期して準備しても、想定通りにならないのが展示作業の難しいところですが、身体は悲鳴を上げていても、アーティストとの共同作業で常に気持ちがワクワクしているから、苦にならないんですね。その分、撤収時の寂しさもまた格別ですが。
これまで沢山の展覧会の運営に関わってきて、つくづく思うことは、作品は「アトリエ」と「美術館」を往復移動しているだけで、展覧会とは、実に儚い、一時の仮構的な空間であるわけです。展示が終わった後、白い箱はまた空っぽに戻る。
アーティストも、キュレイターも、サポーターも、そのことは身にしみてよく知っている。だからその場/その関係でしか成立しないコミュニュケーションの流儀を必死になって構築して、人と作品と空間に、深く関わりたいと思うのですね。頑張れる。
その意味では、『I'm here.』の展示に携わった多くの学生ボランティアや、私たちのような裏方のスタッフこそが、参加した5人のアーティストから恩恵を受けているのかも知れません。まだ若い私たちの大学にとって、この経験が一人一人に刻み込むクリエイティブな作用は計り知れません。感謝。

宮本武典/美術館大学構想室学芸員
■写真上中:出品作家の一人・鈴木伸さん(中央)の制作風景。カオスを生み出すパーツ。
■写真下:作家泊まり込み一週間の成果の中、設営担当の構想室スタッフ・大谷さんが佇む…。搬入は1日仕事、頑張ってください!
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今年で2回目となる『I'm here.』展が、来週22日(金)からスタート。西展のためのカタログ執筆もままならぬほど、美術館大学構想室ではバタバタと細かい調整が続いています。特に今回は映像系の作家が多いため、液晶プロジェクタ−やモニターが大量に必要になり、大学内のいろいろなセクションへ挨拶回り+備品調達に余念がありません。こういうところは大学の利点ですね。

芸工大のスタジオ144では、出品作家の一人・鈴木伸さんの仕込みが連日続いています。鈴木さんは昨年工芸コースを卒業後、東京藝術大学大学院で学んでおり、現在は山形を離れているのですが、この夏は『I'm here.』展のために、こちらでカンズメ状態で頑張ってくれています。展示に掛けるモチベーションは半端ではありません。
最近はアパートの中でしこしこやってる、作品も思考も6畳スケールの若いアーティストばかりなので、こういうマッチョに身を削って作品に向かっていくタイプの作家は応援したくなります。
一昨日は搬入をサポートする学生スタッフを集めて打ち合わせ。今回、鈴木さんは10人の学生スタッフと共に、布と映像を使った大がかりなインスタレーションに挑みます。ご期待ください。

また、23日(土)のギャラリートークに、仙台でインディペンデントキュレーターとして活躍する山崎環さん(NPO法人リブリッジ代表理事)の飛び入り参加が決定!。こちらも熱くなりそうです。
では来週土曜日14:30、せんだいメディアテークでお待ちしています。

宮本武典/美術館大学構想室学芸員

■写真上:七日町の居酒屋『こまや』カウンターで。コケシ収集家の店主から提供された飾り物の小さな金精様(尾花沢産)を手にする西さん。
■写真中:上山の古道具屋で養蚕用の藁籠を7枚入手。これは展示会場造作の一部として使用する予定。
■写真下:制作する西さん。原型に塗布したシリコンラバーの上に、さらに石膏でバックアップ処理を施しているところ。

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週末に設定した休養日も、西さんは精力的に山形市内の古道具屋や蚤の市をひとまわり。夜は郷土料理屋でも飲みがてら情報収集をおこなっていたらしく、週明けの月曜日、西研究室は古い徳利から、陶製の二宮金次郎、コケシ、大根やホッケ(!?)など、大小さまざまなモノ・モノ・モノで溢れかえっていました。

その他、型取り材料として大量の粘土と石膏とシリコンも運び込まれ、アトリエでは収集した様々な「カタチ」の型取り作業が本格的にスタート。かなり手狭になってきた研究室で、西さんは息子さんよりずっと若いアシスタント達と会話を楽しみながら制作を続けています。
原型収集は予想以上の成果で、型取り作業はフル回転です。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典
■写真上:旧立木小学校の図工室の棚から古い土人形を収集する西さん。
■写真中:西さんを囲んでの懇親会の様子。グラスには朝日町特産のワイン、テーブルの灯りは同じくこの地名産の蜜蝋燭。
■写真下:『あとりえマサト』代表の板垣さんは、本学日本画コースの出身で、学生時代から廃校でのワークショップに主体的に関わってきた。

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過疎と少子化のあおりを受け、惜しまれつつ10年前に廃校となった山形県朝日町の立木小学校に、芸工大の卒業生が中心となって運営されている共同スタジオ『あとりえマサト』があります。
東北芸術工科大学では、今年度から文部科学省の支援を受けて『芸術工房村構想』というプロジェクトを立ち上げました。これは、山形県内の廃校におけるアート制作や舞踏公演、ワークショップなどの活動を支援し、卒業後も山形に残り、廃校を舞台に風土と深く繋がりながら自らのアートを追求する『あとりえマサト』のような若者たちと一緒に、地域振興に取り組んでいこうというものです。
美術館大学構想室でも、自身の制作とともに、教室を改造したギャラリーを運営している彼らに提供する展示企画として、『西雅秋ー彫刻風土ー』展の巡回開催を提案し、先週、出品作家である西さんとともに、会場の下見に出かけました。

山形市内から寒河江方面に車を走らせ、緑濃い山並みと、集落をいくつも越え、くねくねした山道を進むこと1時間。清流をたたえた谷間の里に、モダンな木造校舎がつくねんと佇んでいました。
子どもたちの学びの痕跡を、そのがっしりした木肌のあちこち生々しく残す校舎の中を、『あとりえマサト』の板垣さん、田中さん、川勝さん、三浦さんの解説付きでじっくりと見学した西さんは、図工室の棚に残されていた山形の郷土玩具に注目。いくつかを、水上能舞台で発表する作品『彫刻風土』に立木小学校の「記憶のカタチ」を加えるべく収集しました。

日が暮れてからは、かつてこどもたちが裸足で駆け回った廊下に座布団を敷いて、ささやかな交流の酒宴がはじまります。30年前から飯能の山野を自力で拓き、家族を養いながら彫刻を作り続けてきた先輩の言葉は、冬は雪に閉ざされる山間で表現に生きることを決意した『あとりえマサト』の若いアーティストに、深く強く響いていたようです。皆とても穏やかな表情、良き語りの夜でした。
この企画は、西さんの人柄によって、当初の予想をはるかに越えて、人と土地の記憶を巻き込み、ひろがっています。

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帰り際、夜の校庭に出てみると、村の夜はもう秋の涼しさです。
空には星が恐いくらいキリリと輝き、生まれてはじめて見る天の川が、本当に「乳の河」のように、ぼんやりとたなびいていました。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典
■写真上:旅のはじめの記念写真。『鈴木鋳造所』さんは仏像や梵鐘を扱う大きな鋳造所。
■写真中:『雅仙』さんの屋上で20年前に長谷川社長自らが制作したという弁財天を発見。彫刻風土のパーツとして提供してもらうことに。雨ざらしで胸部の損傷が激しいため、頭部のみを切り離し修復して使用します。
■写真下:『南工房』の南社長に銅町特有のるつぼ(金属を溶かすための容器)の運搬補助器具について説明を受けている西さん。鋳造家同士の話は、こと設備については尽きることがありません。「るつぼ」は、西作品の重要なモチーフです。

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28日から彫刻家・西雅秋氏が来校し、芸術研究棟116号室で滞在制作がスタートしています。
先週の金曜日には『彫刻風土への旅』と題し、制作をサポートするボランティアスタッフとともに山形県内の鋳物工房を訪ねてまわりました。

山形市は古くから鋳物が盛んで、市内を流れる馬見ヶ崎川沿いの銅町周辺には、茶道具や仏具などを手がける伝統ある鋳物屋が軒を連ねています。
今回の旅の目的はその倉庫を探索すること。
鋳物屋さんの倉庫には、過去にブロンズに鋳込まれた様々な造形物の原型(石膏や木製のもの)が捨てるわけにもいかず、引き取り手のないまま保管されてることが多いのです。
これらは地元のお寺に納める仏像や、著名人の胸像や、公園のモニュメントや、学校のエンブレムなどで、暗い倉庫には、土地の信仰や記憶にまつわる様々な造形が堆積しています。古い民家に掛けられている肖像写真、あの感じです。

西さんは厚い埃に覆われた倉庫の中をゆっくりと時間をかけて捜索し、仏頭や蓮弁、獅子のレリーフなどを、大学の能舞台に設置する予定の作品『彫刻風土』のパーツとして持ち帰りました。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典
『西雅秋ー彫刻風土ー』水上能舞台におけるインスタレーションイメージ
コメント:「気溝には落ちこんで行く。そして気柱が舟と流されながら鬼(鬼瓦)までも突き上げる。外の展示こんなイメージです」西雅秋

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先に開催した西雅秋氏の特別講演でも周知した通り、この夏、現代美術家の西雅秋氏が本学に滞在し、山形をテーマにした大規模な現地制作に着手します。今回紹介したのは、西さんから届いたばかりの作品プランのスケッチです。

このスケッチによると、全長7メートルの最上川の川舟(木製)を能舞台に移設し、その中に山形県内の鋳物屋から収集した仏頭を中心に、山形を象徴する「かたち」を石膏で鋳抜いたものを大量に積み上げていくという、実に壮大なインスタレーションが示されています。
美術館大学構想室では、この夏期休業期間を利用し、スケッチに示された作品を西さんと一緒に制作してくれる学生スタッフを大募集しています。これは単なる「お手伝い」ではなく、西雅秋というアーティストと、参加者とのコラボレーションによるアート・プロジェクトであると認識ください。
サポートの詳細は以下の通りです。

□西雅秋滞在期間:8月28日(月)〜9月9日(金)約2週間
□活動内容:山形を象徴する「かたち」のリサーチ+収集
      シリコン・石膏による型取り+鋳込み作業
□活動場所:研究棟116号室・西雅秋特設工房

*事前説明会を8月3日17:30〜図書館の学習室(1F奥の小部屋)でおこないます。皆様お誘い合わせの上、ぜひご参集ください。

連絡先/美術館大学構想室学芸員・宮本武典
miyamoto@aga.tuad.ac.jp/023-627-2043
■写真上:出品作家および展覧会スタッフ
左から、和太教授(陶芸)、降旗教授(プロダクト)、尾崎くん(竹内研の院生)、酒井さん(構想室スタッフ)、加藤事務長(構想室)、竹内助教授(建築)、宮本学芸員(構想室)、佐々木講師(陶芸)、小林教授(漆芸)、金子助教授(金工)、水上助教授(漆芸)

■写真下:内覧会直前の会場風景
佐々木理知作品ブースから金子透ブース(右奥)と降旗英史ブース(中央奥)を眺める

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前回に引き続き『作座考-BANDED BLUE2・東北芸術工科大学の7作家-』展の様子をお伝えします。
写真は内覧会直前に展示作業を終え、ホッとした関係者一同。
囲んでいるのは、畳代にエンコ板を張った、竹内助教授デザインの特注台で、出品作家がそれぞれに自作の茶道具を持ち寄り展示しました。
なお、ここには写っていませんが、鶴岡側の学芸部のお2人・那須孝幸さん、山岸早苗さんをはじめ、アートフォーラムの皆さんのきめ細やかなサポートをいただきました。
山岸さんは本学美術史・文化財保存修復学科の卒業生です。

上下とも法人本部の中嶋健治さんの撮影。
■写真上:和太守卑良の展示ブース。花器と生け花の即興的なコラボレーション。
■写真下:金子透による鍛造の手桶には小原流によりオーガスタのドライフラワーが生けられた。

24日土曜日、鶴岡アートフォーラムで、工芸コース教員の作品を中心にした作品展『作座考-BANDED BLUE2-』がオープンしました。
私宮本が企画コーディネートを手がけた本展では、「座」をキーワードに、陶芸・金工・漆芸・木工の各領域を、茶室に見立てたヒューマンスケールのブースに点在、干渉させる空間構成を試みました。
会場造作の設計を建築家集団「みかんぐみ」の竹内昌義助教授にお願いし、本学教授陣の花器に小原流師範・三橋光彩氏が生け込みをおこなうという贅沢な展観は、古き良き伝統文化が息づく城下町・鶴岡のつつましい佇まいに、上質な現代性・先鋭性を加えることに成功したと自負しています。
また、会場には、各参加作家が制作した茶道具を組み合わせた「茶室」のコラボレーションや、制作行程を紹介する映像インスタレーションなどもあり、現代工芸の多様な可能性を示すものとなっています。
山形からはまだ雪を冠った月山を越え、約2時間の道のりとなりますが、ぜひ足を運んでみてください。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典
特別講義『Nishi Masaaki 1946-2005』
日時:2006年6月29日[木]17:30-19:00
場所:本館410講義室/全科学生・一般対象/入場無料

今週木曜日(6/29)に彫刻家・西雅秋(にし・まさあき)氏が来学。日本を代表する現代彫刻家の一人として活動し続けた25年間の軌跡を語ります。
これまで広島市現代美術館(98')や神奈川県立近代美術館(05')で大規模な個展を開催している西氏。本学では今年秋に山形の地に取材した滞在制作をおこない、その成果を7階ギャラリーと本館前の池周辺で発表する予定です。今回の特別講義はそのプレイベントとして美術館大学構想室が企画しました。
埼玉県飯能の自然豊かな山間にスタジオを構える西氏は、主に金属鋳造の溶解、凝固、酸化の過程に、物質と時間、人間と自然との根源的な関係性を探る彫刻作品を制作し続けています。その身体的リアリティーに裏打ちされた実践と思考は、山形の地でアートとデザインに取り組む私たちに、深い内省を促すことでしょう。
文化財保存や美術史系の学生にもお勧め。多くの方の聴講をお待ちしています。

美術館大学構想室学芸員/宮本武典

*9月-10月頃に予定されている、西氏の制作活動に参画したい方(学生・一般問わず)は、美術館大学構想室023-627-2043までご一報ください。
■写真:『Eden』1999年/宮本武典(武蔵野美術大学大学院修了制作)
液晶プロジェクター映像、曲げ木椅子、髪の毛、ガラス etc.
武蔵野美術大学美術資料図書館写真スタジオでのインスタレーション風景

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卒業修了制作展のコーディネートを、美術館大学構想室が担当することになりました。そして今、芸工大ではこの「卒展」のあり方について議論が巻き起こっています。

これまで東北芸術工科大学では、卒展会場をキャンパス内だけでなく、山形美術館(日本画/洋画/工芸/彫刻/写真の展示)や、市内の映画館『ミューズ』(映像)に分散させて開催してきました。それを、今年度からキャンパス会場で一本化するという改革を、松本学長が提案されたのです。
大学内のギャラリーや劇場を活用するだけでなく、学内の一部のアトリエやラボも展示空間にリノベーションして、「制作の現場」を「公開・交流の場」に改造していく。それは、借り物の「箱」に収めるのではなく、制作現場の熱気を感じながら、その成果を来場者に見ていただこうというものです。
もちろん、提案の背景には、定員増による従来の卒展展示スペースの不足や、会場の分散化による鑑賞導線の困難さなど、様々な現実的な要因があるのですが、一番大きなコンセプトは、卒展を東北から発信するアートとデザインの「展覧会」として、メッセージ性のある、魅力あるものにしたいという思いです。

昨年夏、松本哲男学長はベネチア・ビエンナーレの視察に出られました。
ベネチアでは「アルセナーレ」と呼ばれる赤煉瓦の造船所群が展示会場として利用されていました。過ぎ去った大航海時代の記憶を留める古びた空間に、新しいアートが、新しい世界からのメッセージを運んできていました。
僕も同行しましたが、公園内に林立する各国のパピリオンを、炎天下をものともせず、誰よりも熱心に見て回っていたのが松本学長でしたね。(ただし、ビール片手に)海の上に浮かぶ小さな都市・ベニスに、点在するアート・パピリオンを巡りあるく行為は、あたかも世界とリンクする自らの「声」を聞いて回る、内省の旅のように感じられたものでした。
山形の僕は、「新しい卒展」担当者の一人として、様々な立場の、様々な視点からのヒヤリングに奔走している毎日を送っていますが、松本哲男学長をはじめ、執行部の先生方の、新しい卒展創造にかける意欲は、確実に大学を活性化していると感じています。サポートする僕たち大学スタッフは「卒展とは何か? 」の根本を問う一連の試行錯誤の果てを、クオリティーの高い展覧会として結晶させねばなりません。

今年もオフィスで迎える朝が多くなりそうです。

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上の写真は宮本自身の懐かしの作品『Eden』の会場風景です。
大学院の修了制作として発表したこのインスタレーションも、キャンパス内のデットスペースを活用した展示でした。
民族研究室でアルバイトしていた僕は、民具の倉庫として使われていた美術資料図書館内の写真スタジオを作業中に偶然「発見」し、現状復帰とスタジオ内の整理清掃を条件に、展示空間として使わせてもらったのでした。ほとんどの学生たちが足を踏み入れたことのない、大昔のスタジオ器材の墓場のようなこの部屋は、見方によってはハードなコンクリート壁と完全暗転が、映像のプレゼンテーションには最適でした。
友人たちに手伝ってもらいながら、1週間かけて山のような民具を移動し、十数年分の分厚い埃を拭き清め、重たい撮影機材を整理しました。それから油絵学科のモチーフ室に交渉して、モデルポーズ用にコレクションされていたヨーロッパ製の古い曲げ木椅子を大量に運び込み、仮設の劇場をスタジオ内に組み上げました。照明機材はスタジオのものをそのまま流用し、ダンサーやミュージシャン、映像作家に協力してもらってパフォーマンスを映像と組み合わせたインスタレーションとしました。
展示施設として「発見/発掘」された地下墳墓のようなこの「忘れられたスタジオ」は、今では後輩たちの重要な展示会場として卒展やその他の企画展会場に運用されているようです。

美術館大学構想室/宮本武典
【上写真】『ナイアガラ(アメリカ)』設置風景
横幅6メートルの作品を、昌和デザインのスタッフと、日本画コースの学生で設置しているところです。総作品面長が55メートルをこえる本展では、展示スタッフの作業は毎日、深夜まで及びました。
院展の重鎮・松本哲男先生の作品展ならば、本来は美術輸送・展示のプロの業者に委託するところですが、今回は日本画コース生たちの研修も兼ねて、学内スタッフによる設営となりました。
彼らにとっては尊敬する恩師の作品。展示に携われるという喜びと、万が一傷でもつけたら、という緊張のくり返して、疲労困憊した3日間だったようです。


【下写真】『イグアス(ブラジル)』設置風景
東北芸術工科大学ギャラリーには12メートルの作品をかけられる壁面がないため、額をすべて取り払って作品自体を自立させるという荒っぽい展示方法になってしまいました。
写真は『イグアス』パネルを左端から90度に立てながら、順々につないでいっているところ。
またギャラリー中央には大きな吹き抜けがあり、「ロ」の字を描く廻廊型の空間であるため、各作品に微妙なアールをつけて、観客の歩行導線を滝の水の渡りに沿って緩やかに巡回させました。
松本先生には「こんなに絵を素っ裸にされちまったことは、これまでなかったなぁ」と苦笑いされてしまいましたが、日本画の屏風の伝統をモダンにアレンジした、斬新な「滝めぐり」の景観になったと思います。
『松本哲男展 鼓動する大地』のカタログを紹介します。
デザイナーの豊田あいかさんによるカタログは、ベーシックな文字組の中に、効果的な特色使いや、折り込みを見やすくする工夫が随所に見られ、学長就任記念に相応しい品格のある佇まいに仕上がりました。
4段の折り込みによる『ヴィクトリアフォールズ(ジンバブエ)』の図版は、これまで掲載されたどの雑誌やカタログよりも、この作品の静かな迫力を再現していると自負しています。おかげで、私の拙いテキストもカバーされました、、、。
また、巻頭には松本哲男学長と、徳山詳直理事長、赤坂憲雄大学院長の鼎談を掲載し、画家・教育者・民俗学者の語らいを、東北芸術工科大学の新しい出発を示す本展の導入としました。
20日までの会期中、一部1,000円で販売しています。