ぼくのニワトリは空を飛ぶー菅野芳秀のブログ
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ホッカムリして手を振って
トイレットペーパーをめぐって行列ができ、マスクをめぐって小競り合いが始まる。コロナ騒ぎのことだ。紙やマスクだからこれですんでいるが、これが食料ならばこんなことでは済まない。大きな騒動になるだろう。
でも安心するのは早い。日本の食糧自給率は37%。先進国の中では最低の数値で、日本人の胃袋の63%を外国にゆだねているということ。因みにカナダは264%、アメリカは130%、フランスで127%、ドイツは95%だ。爆発的な世界の人口増加により、地球規模での食料不足を懸念する声が上がっている中、日本の食料自給率だけが異常な低さだ。世界中で見られる異常気象や天候不順、あるいは国際情勢など何らかの理由で外国からの輸入が途絶えてしてしまったなら・・・いのちへの危機を感ぜざるを得ない。
平時からこんな思いを持っている中での今回のコロナだ。果たして自給率はこれでいいのか。こんな危うい国造りをやめて、もっと基礎から考え直さなければならないのではないか。日本の食糧事情はすでに破綻している。輸入によって事実が隠されているにすぎない。俺は農民として毎日、コメや玉子や野菜作りに励んでいるけれど、だからこそ見える世界があり、そこに都会の人たちの暮らしや日本という国の危うさを強く感じてしまう。
「とき(時)が来る。トキになる。」という言葉は、和歌山県は本宮町の百姓仲間の造語だ。言葉は短いが、その意味するところはけっこう深い。
世界的には、工業系が主導した生産効率優先の時代から、生命系が主導する循環型社会に向けて、社会の在り方と共に農業の価値が大きくみなおされようとしている。でも、残念ながら日本では、かつての「佐渡のトキ」のように我々百姓は絶滅危惧種になろうとしているという意味なのだけれど、実感だ。
間違いなく世界的に農の時代が来る。いや、もうすでに来ていると言ってもいい。しかし、日本の場合はそこに農家がいることは期待されていない。農民がいることも期待されていない。農家と農民の姿はなくていい。かくして小農がつぶされ、家族農業がつぶされ、その後に待ち受けているのは農薬と化学肥料にいっそう依存した、遺伝子組み換えやゲノム編集技術が跋扈する世界だ。いのちより生産効率を優先した大規模「農業」、企業「農業」だ。そんな近未来を予感せざるを得ない。それは世界の人々が目指している流れと大きく逆行している。
さて、ここから先は近未来の話ではない。実際の話だ。この間、俺がたまたま田んぼに一人で出ていた時のこと。そのすぐ傍を観光バスが通って行った。こんな田舎道を・・珍しいこともあるものだと思い、作業の手を休めて眺めていたら、バスは働いている俺の近くでスピードを緩めた。どういう訳か、中の客のほとんどが俺を見ている。カメラを向けている人もいる。ガイドさんが俺に手を振っている。なんだろう?知ってる人じゃないのに。俺もしょうがないから手を振り返したのだが、バスはそのまま通り過ぎていった。そこから俺はバスの中でのこんな光景を想像した。
「みなさま、右手をご覧下さい。あれが百姓でございます。日本の原風景を訪ねる旅、ようやく田んぼのなかでのどかに農作業をしている百姓と出会うことができました。最近では彼らを田んぼで見かけることがとんと少なくなっていましてね。数少なくなっているんですよ。見れてよかったですね。やっぱり田んぼには百姓ですねぇ。風情がありますよ。あっ、手を振っています。みなさん、シャッターチャンスですよ。」
ま、こんなとこだろうな。でね、次回はなるべく期待に応えて、汚い手ぬぐいでホッカムリしてさ、腰まげてな、鼻水垂らして手を振ってやろうかと思ってんだよ。彼らのなかの原風景にこたえてやろうと思ってな。エッ作り話だって?ホントの話だよ。ホント!
俺たちが絶滅危惧種となり、観光バスが来る。そこまで小農や家族農業が後退するようでは日本も終わりだな。
2020.09.04:
kakinotane
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「ぼくのニワトリは空を飛ぶ〜養鶏版〜」
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でも安心するのは早い。日本の食糧自給率は37%。先進国の中では最低の数値で、日本人の胃袋の63%を外国にゆだねているということ。因みにカナダは264%、アメリカは130%、フランスで127%、ドイツは95%だ。爆発的な世界の人口増加により、地球規模での食料不足を懸念する声が上がっている中、日本の食料自給率だけが異常な低さだ。世界中で見られる異常気象や天候不順、あるいは国際情勢など何らかの理由で外国からの輸入が途絶えてしてしまったなら・・・いのちへの危機を感ぜざるを得ない。
平時からこんな思いを持っている中での今回のコロナだ。果たして自給率はこれでいいのか。こんな危うい国造りをやめて、もっと基礎から考え直さなければならないのではないか。日本の食糧事情はすでに破綻している。輸入によって事実が隠されているにすぎない。俺は農民として毎日、コメや玉子や野菜作りに励んでいるけれど、だからこそ見える世界があり、そこに都会の人たちの暮らしや日本という国の危うさを強く感じてしまう。
「とき(時)が来る。トキになる。」という言葉は、和歌山県は本宮町の百姓仲間の造語だ。言葉は短いが、その意味するところはけっこう深い。
世界的には、工業系が主導した生産効率優先の時代から、生命系が主導する循環型社会に向けて、社会の在り方と共に農業の価値が大きくみなおされようとしている。でも、残念ながら日本では、かつての「佐渡のトキ」のように我々百姓は絶滅危惧種になろうとしているという意味なのだけれど、実感だ。
間違いなく世界的に農の時代が来る。いや、もうすでに来ていると言ってもいい。しかし、日本の場合はそこに農家がいることは期待されていない。農民がいることも期待されていない。農家と農民の姿はなくていい。かくして小農がつぶされ、家族農業がつぶされ、その後に待ち受けているのは農薬と化学肥料にいっそう依存した、遺伝子組み換えやゲノム編集技術が跋扈する世界だ。いのちより生産効率を優先した大規模「農業」、企業「農業」だ。そんな近未来を予感せざるを得ない。それは世界の人々が目指している流れと大きく逆行している。
さて、ここから先は近未来の話ではない。実際の話だ。この間、俺がたまたま田んぼに一人で出ていた時のこと。そのすぐ傍を観光バスが通って行った。こんな田舎道を・・珍しいこともあるものだと思い、作業の手を休めて眺めていたら、バスは働いている俺の近くでスピードを緩めた。どういう訳か、中の客のほとんどが俺を見ている。カメラを向けている人もいる。ガイドさんが俺に手を振っている。なんだろう?知ってる人じゃないのに。俺もしょうがないから手を振り返したのだが、バスはそのまま通り過ぎていった。そこから俺はバスの中でのこんな光景を想像した。
「みなさま、右手をご覧下さい。あれが百姓でございます。日本の原風景を訪ねる旅、ようやく田んぼのなかでのどかに農作業をしている百姓と出会うことができました。最近では彼らを田んぼで見かけることがとんと少なくなっていましてね。数少なくなっているんですよ。見れてよかったですね。やっぱり田んぼには百姓ですねぇ。風情がありますよ。あっ、手を振っています。みなさん、シャッターチャンスですよ。」
ま、こんなとこだろうな。でね、次回はなるべく期待に応えて、汚い手ぬぐいでホッカムリしてさ、腰まげてな、鼻水垂らして手を振ってやろうかと思ってんだよ。彼らのなかの原風景にこたえてやろうと思ってな。エッ作り話だって?ホントの話だよ。ホント!
俺たちが絶滅危惧種となり、観光バスが来る。そこまで小農や家族農業が後退するようでは日本も終わりだな。