Farm to table ファームトゥテーブル

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「冷やしトマトが一番だね。薄くきって軽く塩をふるだけ。肝臓にいいらしいから、晩酌のときに食べていますよ。トマトを切るとき、中身の種とゼリーがこぼれないコツは、まずへたを取って頭の部分を薄く切る。中に見える白い放射線状の白い線に合わせて切る。やってみてください」
お話をうかがう中で、積極的に新しい視点で挑戦する、失敗を恐れない姿勢が伝わってきました。トマト作りの合格点といわれる収穫高は約8トン/10a。それに対して2倍の16トンという結果を出していることでも、独自に取り組む「のびのびと根を張らせる」栽培方法が成功していることを物語っています。収穫が忙しい時期は朝4時から仕事開始。ピークが過ぎたら、近くの柳川温泉などで骨休めをしているそうです。

まるまると肥え、ゴロン、ゴロンと畑に鎮座する、
夏の味覚といえば「尾花沢スイカ」。
日本一と称され続ける理由は、
みずみずしい歯触り、そして糖度11度以上の甘さにあり。
すいか生産部会部会長の大山弘一郎さんは、16歳からこの仕事を始め、今年でキャリア55年になる大ベテランです。現在栽培しているのは富士光TR。
20年近く作られてきた富士光をバージョンアップしたもので、寒さに強く、「形もいいし、味はさっぱりしてザブッとした食べ応え」と大山さん。かぶりついた時にみずみずしいさが口いっぱいに広がるそう。
3月の下旬になると、いよいよ土づくりの開始です。炭の粉を融雪剤としてまいて雪をとかし、4月には雨から守るビニールトンネルを設置して、土を温めます。畑を歩くと、足が沈むほどやわらか。「良質の堆肥を混ぜてあるから、大きくて、甘い果肉になるんだよ」。長年の積み重ねによって作り出された、大山さん流の土だそうです。
緑の皮に真っ赤な実が詰まったスイカ。名産地の代表といえるのが尾花沢です。県内はもちろん関東、関西方面へも出荷されるため、名古屋あたりになると、山形の地名は知らなくても、「尾花沢スイカという名前なら知っている」という人も少なくないんですよ。
スイカの大敵がカビの一種であるつる枯病です。梅雨の時期以降から収穫期直前まで発生する可能性があり、一度発病したら止めることは出来ません。
つる枯病の原因は高温多湿。尾花沢は冬の間に1m50cmも雪が積もる地域ですから、はじめは土を適度に温め、7月になれば通気をよくしておくことが必要に。大山さんはトンネルの開け閉めと、年間通して消毒、防除剤で対策を図っています。
「ただ、この辺りは夏でも半袖でいられないほど、冷たい風が吹くんですよ。そのおかげで病気の発生が少ないんです。結果的に防除剤の使用も少なくて済みますね」。最適な気候条件と技術がぴったり合うことで、見事な味が生まれるんですね。
「スイカは採れたてが最高においしいですから、頂き物なども早めに冷やして食べて下さい。
残った皮は浅漬に。実のと緑の皮の部分を取り除いて、厚めの千切りや1cm幅位の食べやすい大きさに切って塩もみし、数時間おけば完成です。ビールのつまみにも合いますよ」
生産者  大山弘一郎
スタッフ 奥様
事業内容 スイカの栽培
所在地  尾花沢市
連絡先  みちのく村山農業協同組合 尾花沢営農ふれあいセンター
     尾花沢市大字尾花沢1611-5 0237-22-2020
今年71歳とは思えない、若々しい大山さん。6月の交配が終わると、からまるつるを何日もかけて整理し、大きく育ちそうな実を見極め、余分な実を取り除く摘果の作業に入ります。7月20日以降からお盆あたりまでが、いよいよ収穫と出荷。丸々と育ったスイカは、全国で初めてソフトが開発されたコンピューターにかけられ、「うるみ」などの基準に合った商品だけが市場へ送られていくのです。

山形の夏に、なす漬は欠かせない存在。
地元産の上質素材で漬ければ、味のご意見番も納得の品になりますね。

なすとはながーいお付き合い


なすは原産がインドの熱帯性植物だけに、高温多湿を好み、熱帯夜が続く山形は好適地。家庭菜園で露地栽培を楽しんでいる人も多いですね。とはいえ「規格にあった商品を、安定した量で市場に出す」となると、そう簡単にはいきません。なすに関しては約20年のキャリアを持つベテランの井澤さんですが、「品種が変われば栽培方法も変わる。最近も高知まで視察に行ってきて勉強してきたところですよ」。
ハウス栽培の場合は、4月中旬から11月初旬までと収穫期が長く、収穫後は株を抜いて畑を平らに戻し、冬の間にもみ殻入りの堆肥作り。種まき後は、成育中病気にならないよう接ぎ木をします。「ハウスの環境は温度管理も難しい。あまり温かいと苗がモヤシにようになってしまうんです。子どもと同じ。甘やかしすぎてもダメですね(笑)」。
そして、1月中旬には着果させるためのホルモン処理がスタート。開花に合わせ、霧吹きでホルモン剤をかけていきます。「1本の株につき20数花ずつ行います」。と聞けば簡単そうですが、約300坪の広さのハウスにある花の数は何万花。光がまんべんなく当たるよう、余分な葉を取りながらと、もっとも手間がかかるのがこ
の作業です。
生産者  井澤芳太郎
スタッフ 奥様 息子さん
事業内容 なすの栽培
所在地  山形市
連絡先  山形市天神町59
     JA山形中央営農センター 023-684-2547
ご本人の連絡先 023-681-1005
接ぎ木した苗が成長してきたら、2日がかりで定植。3月20日前後に1番花が咲き始め、今度は絡み合った枝の整理です。「ハウスは特に枝が増えやすいので、こまめに摘芯や摘葉をしなければなりません」。農業は一般的に、冬場は休みの時期と思いがちですが、なすのハウス栽培は、ほぼ1年中。「初収穫の時、出来映えが良いと、本当にうれしい。これの気持ちを味わいたいから、どんな時期でもがんばれるんです」と話してくださいました。
「ナス漬の中でも浅漬が合いますね。漬物もね、採れたてをすぐに漬けると味が格段いい。漬けあがったなすは、中の空気を出すように1個ずつ握り締めると、軟らかくなって食べやすくなります。変わったところではビール漬などもおいしいですよ」
18歳から農業に携わり、現在は野菜中心の農業を営んでいる井澤さん。栽培しているなすは「真仙中長」という名前の小なすで、浅漬け専用の品種です。忙しい時期は、朝5時から仕事が始まるとか。取材にうかがった日、井澤家特製のなす漬けをいただきました。色艶のいい皮は張りがあって適度にやわらかく、中身はキメがつまってみっちり!漬け物も採れたてのうちに作るのが一番だそうです。

『神町いちご倶楽部』が育てた赤くてキュートなお姫様は、
デビューから5年目をむかえ、ますます注目を浴びています。
さくらんぼやりんご、ラ・フランスなどの果樹栽培をしていた森谷さんが、地元の仲間といちごの栽培に取り組むことにしたのは5年前。「最初に立ちはだかった壁は、資金繰りでした」。事業によっては公的な補助金の制度を利用できるのですが、山形県内でもあまり前例がないため、融資を引き受けてくれるところが見つからない。何度も窓口に足を運び、視察にも同行してもらって説明、説得を繰り返したそうです。
同時に販路も見つけなければなりません。「市場をまわりって、取り扱ってくれるようアピールしました」。
資金の目処がたち、従来の果樹畑を更地にしてハウスを建て、いよいよスタート。
「地面に直接植えずに立ったまま作業ができる高設ベッドを導入し、寒い時期に根の活性を高めるための温水パイプを設置するなど、画期的な方法を積極的に取り入れています。「培養土は有機質含量が高い、天然土壌改良材のピートモスを入れたもの。
排水・保水性がとてもいいんです」。そこへ流しているのが、一度酸性とアルカリ性に電気分解した混合水。水の分子が細かいので、吸収がとてもいいのだそう。
消費者の声に応えるために

本来いちごは夏の気候にあった作物。クリスマスシーズンでも収穫できるようにするため、冬場はボイラーでハウス内をあたため、夏場の日中はハウスを開け閉めしての温度管理が必要に。苗を植えて根がつくまでは、特に目が離せないとか。「いちごは野菜に分類される農産物なんですが、やはり果樹栽培とはまったく手法が違いました。頭を切りかえてやっています」。さまざまなハードルを乗り越えて育てあげたからこそ、ここまでの質、味になったのでしょう。実のしまった果肉は、口の中でぷちぷちと種が弾ける音がするほど。甘さもバツグンでした
いちご姫はパッケージも工夫をしています。芸工大の学生に依頼して、フィルムも箱もオリジナルのデザインに。ギフトにもよろこばれそうですね。
生産者  森谷栄助
スタッフ 奥様、他
事業内容 いちごの栽培
所在地  東根市
連絡先  東根市神町中央1-8-1
     JA神町 0237-48-1504
自宅   0237-47-2056
「長い時間冷すと甘みがなくなるので、できるだけ買った日に食べてほしいです。重ねたままは痛みやすいので、食べるまで時間があく時はバットなどに一段に並べて保存するのがベスト。洗うのは食べる直前に。そのままで充分甘いですが、うちの子ども達はコンデンスミルクをつけるのが好きですねー」。
『神町いちご倶楽部』のメンバーは、森谷さんを始め、塩野さん、平山さん、鈴木さんの4名。福島や仙台などの産地も視察して栽培方法を学んだそうですが、「あっちは太平洋側、山形は日本海側。気候条件、品種、栽培方法など不安材料は山ほどありました。でもチャレンジのしがいがあるし、今も一日一日が勝負。いちご命ですよ」と、真剣に取り組んでいる姿勢が伝わってきました。

温暖な気候を好む桃は、
山形が日本北限の生産地です。
日中の暑さと朝夜の涼しさで甘さが綴じ込められて、
むっちり丸い果実に育ちます。
4月になると、桃畑には淡いピンク色の花が咲き始めます。桃の原産地は中国の黄河や揚子江の流域といわれ、故事によると「桃源郷」はすなわち「理想郷」のこと。春雨の中、うっすらと霧がかった光景は幻想的で、おとぎ話の世界に紛れ込んだかのようです。
のどかで平和な眺めとは逆に、工藤さんにとって「最も忙しいのがこの時期」だそう。
「摘花といって、果実が成りすぎるのを防ぐために、余分な蕾や花を一つ一つ摘みとっていくんですよ」。栽培している桃の木は200本以上。早朝5時には朝食を持って畑に出かけていくそうです。実が成長してきた後も形の悪いものや病気になった果実を摘果し、十分に日が当たるよう混み合った枝を間引きしていきます。
高校の頃から、家業のさくらんぼ栽培を手伝っていた工藤さん。平成元年、桃団地の設立をきっかけに、新たな勉強が始まりました。当初は満足のいく実がならなかったり、せっかく育った実が収穫前に落ちてしまったり。何が原因か分からず模索していく中で、枝を切り落とすせん定にポイントがあったことを見つけだします。「強い枝に実を生らせると果肉もしっかりするし甘さにコクがでる。でも、所々に強く長い枝を残さないと木が弱る。枝が酔っぱらったみたいになっていたらダメなんだよ」。工藤さんが作る桃の木には、盆栽のような美学があります。平成十年十二年には、農協の桃あかつき立ち木品評会で最優秀賞を受賞しました。桃は病気の感染時期が長いため、殺菌、殺虫に十分な配慮が必要です。現在は東根果樹組合のもも部長を務め、今年からエコファーマーの取り組みも開始。「作る側にとっては何十個の桃でも、食べる人にとっての評価はその1個だからね」という言葉が印象的でした。
グリーンツーリズムの活動をしている奥様。桃を食べた人たちから届く「おいしかった」のハガキが何よりの励みだそう。
生産者  工藤高男
スタッフ 奥様
事業内容 ももとさくらんぼの栽培
所在地  東根市
連絡先  東根市農業協同組合 東根支所
     東根市大字東根甲1390-1 0237-43-1121(代)
自 宅  東根市大字東根甲2116 0237-43-2010